なぜ多様性は必要なのか

2020年以降の発売

多様性とは異なる経験、文化、スキル、意見を持つ人々が集まることを意味します。
VUCA(不確実性、不安定性、複雑性、曖昧性)の時代の組織において、多様性は非常に重要です。
なぜなら、このような環境では問題もシンプルではなく複雑になり一つの視点やアプローチだけでは問題解決は困難です。
多様なバックグラウンドやスキルを持つ人々が集まることで、異なる視点からの情報や意見を組み合わせることが可能となり、より効果的でバランスの取れた意思決定に導きます。
その結果リスクを最小限に抑えつつ、機会を最大限に活用することができます。

シンプルな問題と複雑な問題の例として団体スポーツを例に考えてみましょう。
短距離リレーのメンバーを選抜するにあたって、考えるべきは走者の能力だけ考えれば問題ありません。タイムの速い選手を選んでおけば、失敗は限りなく少なくなります。
シンプルで単純な課題を解決する組織は能力のみの選考で多様性は不要です。

いっぽうサッカー日本代表メンバーを選抜する際は、簡単ではありません。
・どのような戦術で戦うか?
・どのようなフォーメンションで挑むのか
・相手との力関係は?
・コンピネーションの問題は?
・怪我人が出た時の控え選手の必要すきるは?
・スーパーサブは誰にするか?・・・
などを総合的に考えたうえで代表選手を選考します。
ワールドカップやオリンピックの度に、選考結果に賛否両論が起こるのは必然です。それだけ複雑な問題だからです。

現代はサッカー以上に不確実性の高い時代といえます。
そんな時代に示唆を与えてくれる良書を紹介します。

【良書紹介】多様性の科学

書籍タイトル:多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
著者:マシュー・サイド Matthew Syed
発売日:(原著)2020年4月 (日本語版)2021年6月

オックスフォード大学哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業後、卓球選手として活躍した、英『タイムズ』紙の第一級コラムニストである著者が、豊富な事例から多様性の効果と多様性のない組織の致命的な失敗をあますことなく書かれてます。
多様性を活かすための施策は、多様性の長所を阻むものは何なのか組織開発のヒントがここにあります。

人口統計学的多様性と認知的多様性


多様性を捉える概念は主に二つに分かれます。
年齢、性別、民族、宗教、性的指向、障害、所得水準などの異なる属性から構成される多様性は、人々の属性や特徴に焦点を当てており、人口統計学的多様性と呼びます。
いっぽう考え方、見解、経験、スタイルなどの認知的な側面に焦点をあて、様々な知識、スキル、経験、見解、思考を持っていることを認知的多様性と呼びます。

組織を組成するにあたって重要なのは後者の認知的多様性です。
一時ダイバーシティが注目され、人口統計学的多様性が重視されました。
しなしながら人種・性別・年齢などを満遍なく集めても、メンバー同士が同様な価値観や思考パターンしか持っていない組織の認知的多様性は低いといえます。
健全な組織が目指すべきは認知的多様性で組成する集団です。

画一的集団の落とし穴


どんなに優秀な人員を揃えても、認知的多様性が低くクローンばかりのような集団を画一的集団と呼びます。
画一的集団は思考の傾向が似通っているため、賛同も得やすく議論も快適に進みます。しかし、ここに落とし穴があります。
VUCAと呼ばれる時代の問題はシンプルではなく複雑に複雑を重ねて絡まってます。

本書では、2001年9月11日に起きた同時多発テロの悲劇は、アメリカが誇る最優秀知性を揃えた集団のCIAが画一的集団であったため未然に防げなかったと鋭く指摘してます。
ビン・ラディンによるプロパガンダと過激なムスリムへの啓蒙、アルカイダによるジハードやテロの扇動、さらにはハイジャック犯は事前にアメリカ航空学校で訓練を受けていたことまで明らかになってます。
これらの事実を把握していたにもかかわらず、画一的集団であったCIAには点と点を結ぶ集合知もなく大きなリスクと捉えられなかったことが同時多発テロを防ぐことができなかった最大の要因と指摘してます。

画一的集団は盲点を見抜けないだけではなく、盲点があることすら気づかないというのが最大のリスクです。

多様性とイノベーション

認知的多様性のある組織はイノベーションを育みやすい環境ともいえます。なぜならばイノベーションはアイデアとアイデアの掛け合わせで創出されることが多いからです。
これまでイノベーションはゴールを目指しながら改善やアイデアを続けながら革新的な発明となる漸進型イノベーションと標準的ではないもの同士の掛け合わせで発生する融合イノベーションがあります。これまで漸進型イノベーションと融合型イノベーションは共存していたが、昨今のイノベーションは融合型イノベーションが主流になっています。

多様性のある組織では異なる専門分野や経験を持つ人々が集まることで、様々な視点やアイデアが生まれます。このアイデアや技術の多様性を組み合わせることで新たなイノベーションを生み出す土壌となります。異なる専門知識やスキルセットを持つ人々が協力し、アイデアや視点を統合することで、新しい製品やサービスが生まれやすくなります。
スマホと金融、自動車とAIなどは融合型イノベーションの代表例です。

多様性の活力を阻むもの

認知的多様性を担保しても、その長所を活かすためには、多様性の活力を阻むものを避けなければなりません。
そこで多様性の活力を阻むものを紹介します。

支配型と尊敬型のヒエラルキー

組織にはヒエラルキーが必要です。Google社がフラットな組織を目指しマネージャー職を廃止し、フラットな組織に変えましたが、この組織はGoogleも失敗とみとめています。

リーダーが不在であれば、絶えず諍いが起き、決断もされない恐れがあります。リーダーは賢明な判断をする役目を負います。リーダーが賢明な判断を下すにあたって重要なのは情報共有です。情報なくして適切な判断は下せません。
留意すべきはヒエラルキーがあっても、それが支配型と呼ばれる威圧や強制で力を誇示するリーダーシップでは、情報共有が進まず多様性組織の活力を阻みます。
多様性の活力を高めるには、支配型ではなく尊敬型のリーダーシップが必要です。尊敬型リーダーは力で誇示するのではなく知恵を示します。数年前から話題を集めている心理的安全性にもつながるリーダーシップの姿勢です。

エコーチェンバー現象

エコーチェンバー現象とは、グループ内のメンバーが同じ意見や情報を反復的に共有し、それがグループ全体で強化される現象を指します。グループ内での情報の反復的な共有と強化によって、外部からの情報や異なる視点が入ってきても、無視するだけではなく、人格攻撃やフェイクニュースと決めつけ自身の意見を強固にするために、異なる意見を利用することもあります。

ソーシャルメディアやオンラインコミュニティ全盛の昨今、誰しもエコーチェンバー現象の当事者になる可能性があります。

本書をお勧めする事由

ダイバーシティマネジメントとは、数10年前からある概念です。以前は人材確保や差別撤廃などの論点で語られることが多かったと思われます。先行き不透明で複雑な課題が溢れている現代はもう一歩進んだ意義で多様性は重要です。
VUCAの時代は認知的多様性なくして組織の発展は困難だと思われます。
人口統計学的多様性はなくとも認知的多様性の活力は取り入れることは可能だと思います。自組織の盲点をなくし、イノベーションを育むためにも本書は有益な示唆を与えてくれます。

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